墨絵を描く  2020年3月

北海道の冬は長い。本州では桜の話題で持ちきりの頃でも、まだ丘には雪が残っているほどだ。とはいえ、日に日に日差しは強くなり暖かな光に包まれる日も多くなってくるのもこの頃。農家はその太陽の力を借りて、半ば強引に雪解けを進める作業を行う。融雪剤と呼ばれているが、要は炭を撒くのだ。炭の黒は太陽の光を吸収し、雪をどんどん溶かしていく。作業開始から1週間もすれば、丘のあちらこちらに墨絵のような模様が完成する。

この作業によって雪解けは1週間早まるという。冬の長い北海道にとって、この1週間は貴重でその後の収穫に大きな影響があるという。そう、農家は次の秋を見越してこの時期に強引に春を呼び込んでいるのだ。自然環境の厳しい北海道の大地を開拓し、苦難を乗り越えてきた彼らだからこその知恵と言えるだろう。まるで飛び跳ねるように見える融雪剤を散布する姿から、来たる春を最大限喜んでいるように感じるのは、そのせいかもしれない。

そんな墨絵の丘に日の出の頃に立つ。登る太陽が丘を染め上げ、あたり一面を黄金色に変えていく。墨絵部分のディテールを描き出すためにGNDフィルターを使って空と丘の輝度差を調整し、画面全体の露出をコントロールした。

top|photo index
中西敏貴:Signs – 風景に潜む気配​