春風に揺れる   2020年4月

全国を北上し続けた桜前線が北海道へ上陸するのは4月下旬。遅い遅い春が北の大地にやってくる。肌寒さが続いていたと思えば急に暖かくなり、突然春が爆発するように弾け始めるのもこのころ。つい先週まで枯野だったと思っていたのに、新緑が芽吹き春の野花が咲き乱れ、そして桜が咲く。

この時期の北海道は南風の吹く日が多い。温もりのある風が日陰の雪を急速に溶かし、木々の芽吹きを後押しする。やっと咲いた桜は、この強い風であっという間に花吹雪となり、ほんの数日で美しい姿は消え去ってしまう。本州の桜も儚いが、北の大地の桜の命はさらに短いように感じるのは気のせいだろうか。しかし、桃色とも言える濃い色には桜の儚さよりも、強さを宿しているようにも思う。それは野生種に近いエゾヤマザクラの特徴かもしれない。

厳しく長い冬を越え、突然やってきた暖かい風に揺れながら、きっと今年の桜は咲く。それが自然の成り行きであるし、当たり前の繰り返しなのだ。そこに人の力は及ばない。逆らうことなく、風になびく花のように自然を感じていたい。

top|photo index
中西敏貴:Signs – 風景に潜む気配​