Canon 5D Ⅲ, Canon 11-24mm @14mm, f/16, ISO: 100, SS: 181秒, V5ホルダー, ND1000

暴風雨前夜の「悪魔の歯」- ノルウェー・セニヤ島

「嵐の前の静けさ」を、「雲の動」と「山と水の静」の対比により表現

セニヤ島(Senja Island)はノルウェーで2番目に大きい島だ。この作品は有名なTungeneset展望台から撮影された。この展望台から湾の対岸にあるOkshornan山脈を眺めることが出来る。この山脈はその独特な外見から「悪魔の歯」と呼ばれている。

撮影時間は夕暮れ時だが、太陽が沈んだ後に黒雲に覆われ、嵐が訪れようとしていたため、色彩に乏しかった。そこでND1000を使用し、約3分の露光で雲の流れを写真に収めてみることにした。長時間露光にすることで水面が滑らかになり、山脈が本来持つ落ち着いた静かな雰囲気を高めることができた。また、単調な色相も冷静な雰囲気を出すことに一役買っている。当時の「嵐の前の静けさ」を、「雲の動」と「山と水の静」の対比により表現することができた。

前景は写真に奥行きを持たすことができるほか、引き込みの役割として、見る人の視線を主役へと導く。この作品には、非常に明確な前景―「悪魔の歯」に向かっている細長い潮だまり―がある。風景撮影ではよく、広角レンズのパースが変形する特質を利用し、近距離の物体を前景として効果的に誇張した視覚効果を狙うことがある。しかし、この手法は今回の撮影には向いていない。なぜなら潮だまりの細長さを縮めてしまうからだ。そこで少し離れた角度から撮影することで、潮だまりの形をより細長く見せ、奥行き感のある引き込み線としたことで、見る人の視点を主役である「悪魔の歯」へと導くことができた。

前景は作品の完成度にとって非常に重要で、もし一貫した連続性を構成出来たら、他の要素と相まって写真の完成度を高めることができる。この作品の視線の流れは、前景の潮だまりに始まり、「悪魔の歯」へと導かれ、それから外へと放射する雲の軌跡を通じて、主役から離れていく。これらの連続性が互いに呼応した効果となっている。

このように、長時間露光撮影によって、作品の雰囲気を演出し、ダイナミズムを高め、さらに構図の連帯性を作りだしている。

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