薫る丘  2020年6月

新緑が終わりほっと一息ついていると、突然緑が濃くなっていることに気づく。6月はそんな季節だ。寒い日もあれば暑い日もある。寒暖を繰り返しながら、盛夏へと向かっていくころと言っていいだろう。山にはまだ残雪が残るので、吹き降ろしの風は冷たい。

その頃、里に近い丘ではいよいよ花が咲く。色とりどりのパッチワークに包まれる7月とは違い、まだこの時期の畑は緑が主体だから、こうした色の花景色は特に目を引く。近づくと甘い薫が漂い、ミツバチが飛び交っている。春とは全く違う空気感に包まれながら、一人幸せな時を過ごすのもいいものだ。

風に揺られる花の姿をどうしたら描けるだろう。NDフィルターの濃度を変え、心地よい揺れ加減を探っていく。アナログではあるが、この時間がとても大切だ。風の強弱と方向性を予測しながら、タイミングを見計らいシャッターを切る。何度目かのレリーズの後、液晶には風が浮かび上がっていた。

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中西敏貴:Signs – 風景に潜む気配​