海 2019年12月

僕が住む美瑛に唯一ないもの。それは海だ。いま、アトリエの窓から見えている冬の丘を覆い尽くす一面の雪は、上空の水蒸気が冷やされて舞い降りてきたものだが、地球規模の大きなスケールで物事を考えてみると、やはりいつかは海とつながっていく。山があり、そこに積もった雪が川となって麓に流れ、遥かな旅路を経ていつかは海へとたどり着く。そこで蒸発した水分は、また長い時間をかけて、山へと帰ってくる。これが自然の摂理だ。

人の概念では捉えられない時間の流れをイメージすることで、写真的思考はさらに深まっていく。表層的な美しさや一瞬のインパクトに心惹かれるのは当然のことであるし、そのような思考の時期も確かにある。しかし、僕は、目の前で繰り返される自然の成り行きを、誇張せず、着飾らず、あくまでも淡々と、一歩引いた目線で捉えたい。
太古の昔から、この場所ではこのような光景が繰り広げられてきたのだろう。ここを景勝地と呼んだのは人の視点であり、そこに自然の意思は存在しないという事実を、感じざるを得ないのだ。

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中西敏貴:Signs – 風景に潜む気配​