秋の向日葵 2019年10月

絶景という言葉はあまり好きではない。価値観は人それぞれであるし、心が動く風景も多様だと思うからだ。絶景という一つの指針に縛られて写真など撮りたくないから、僕は誰もいないところでの撮影を好む。緑肥用に植えられた、秋の向日葵が咲くこの場所もそうだ。誰一人いない広大な畑に立つのは僕一人。聞こえてくるのは小鳥のさえずりと鹿の鳴き声くらいだろうか。

日の出の時がやってきた。音もなく、静かに陽の光が僕を照らすと同時に、向日葵を浮かび上がらせてくる。目の前の光景に臨場感と立体感が生まれ、風景が躍動する時だ。当然、空と地上の露出差が大きくなるので、グラデーションフィルターを用いて整える。ここで僕が心がけているのは、撮影時にできる調整は可能な限り現場でやっておくということ。自然の中の光は一方向にしか向かわないので、その方向性に反するような画像処理で現場の臨場感を壊したくはないからだ。

撮影時間は数分だったろうか。いつの間にか小鳥のさえずりはなくなり、遠くでトラクターの動く音がした。今日という一日が始まる。

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中西敏貴:Signs – 風景に潜む気配​