スコーグサンデンの憂鬱 – ノルウェー・ロフォーテン諸島
曇り空の午後でも、人を惹きつけるような作品は撮影できる
ノルウェー・ロフォーテン(Lofoten)諸島にある有名なスコーグサンデン( Skagsanden )は、ロフォーテンに来た写真家なら必ず訪れる聖地だ。ここでは、湾の対岸にある壮麗な山の背景の他、前景となる海辺が非常に多様であり、岩場や小川が織りなす様々な景色がある。また、変化が多いロフォーテンの天気も写真家を驚かせ魅了する。ロフォーテンの美しさは、訪れて初めてわかるものだ。
この作品は、正午頃の曇天時にND1000を使い、露光時間は約90秒で撮影した。動きのある黒雲と海水の流れを滑らかにすることで、より簡潔に表現した。曇の日は黄や青の時間帯の色がないが、曇空独特のうす暗い冷やかな雰囲気を長時間露光で捉え、さらに四辺を暗くすることで、この憂鬱な雰囲気を強調した。
良い作品には前景、中景、遠景と明確な階層が必要である。その中で最も重要なのは前景で、写真に順序と奥行きを与えることができ、各要素を結びつけて作品の物語性を増すこともできる。この作品は大きな石を前景に、周辺を黄色い枯れ草が覆っている。これらの枯れ草は写真に色彩を与え、写真全体の冷たい雰囲気との対比を生み出す。また、石を取り巻く枯草は前景を孤立させ、しかも見る人の視線を捕まえる効果もある。
撮影の角度は適当か、やや低くで、低すぎてはいけない。前景と背景の間には適度な空間があり、奥行きを生み出している。もしカメラの角度があまりにも低すぎる場合、広角レンズの歪曲収差が起き、前景を誇大に強調する事もできるが、そうすると、海面は見えないだろうし、前景の石も山に近づくか重なり、奥行きが失われる。ちなみに、風景撮影では三脚は安定性の他、中軸のないものか、取り替えられる物を使えば伸縮性が増し、より一層角度の高低を調整しやすくなる。低角度の撮影は風景写真ではよく用いられる手法である。
このように、長時間露光撮影を使うことで、写真に躍動感を与えたり、(不要な要素を抽象化することで)画面を簡潔にすることができ、撮影には向かないと思われがちな曇り空の午後でも、人を惹きつけるような作品を撮影する事ができる。